小説で読む、契約書の重要性

小説 契約の壁を越えて

「やっぱり、ちゃんとした契約書を作らないとまずいですよね……」

独立したばかりのあるエンジニアは、目の前の弁護士にそう問いかけた。法人化して初めての大型案件。だが、クライアントから送られてきた業務委託契約書を読んでいるうちに、不安が募った。
専門家の助けが必要だと感じ、法律事務所を訪れたのだ。

「この契約書ですが、内容にいくつか気になる点がありますね」

弁護士の小笠原は、書類にじっくり目を通し、赤ペンでいくつかの箇所に印をつけた。

「たとえば、納品物の所有権に関する条項ですが、開発したソフトウェアの著作権がすべてクライアントに帰属する形になっています。修正や再利用の権利も放棄することになりかねません」

「えっ、それって……。僕が作ったコードを、他の案件では使えなくなるってことですか?」

「その可能性が高いですね。特に、ライブラリやフレームワークの流用も禁止されている文言がありますから、今後の開発業務に支障が出るかもしれません」

頭を抱えた。フリーのエンジニアとして、過去のコードを活用しながら効率的に開発するのは重要な戦略。それを封じられたら、案件ごとに一からコードを書かなければならなくなる。

「じゃあ、どう修正すれば……?」

「まず、知的財産権の帰属について、クライアントと貴社がどのように権利を分け合うのかを明確にしましょう。たとえば、クライアントには納品物の使用権を付与するが、著作権は開発者側に残るという形にすることもできます」

「なるほど……!」

「それから、この契約には仕様変更に関する取り決めがありません。今のままだと、クライアントが途中で仕様を大きく変えたとしても、追加費用の請求を拒むトラブルに巻き込まれる可能性があります。適正な範囲を超えた修正には、別途見積もりを提示して、費用請求をできるよう明記しておくべきです」

エンジニアはメモを取りながら、改めて契約の重要性を痛感した。技術だけではなく、契約の知識がなければ、思わぬ不利益を被ることになる。

「ありがとうございます、小笠原先生。こういうことって、エンジニアだけで考えてたら絶対に気づけませんでした」

「そうですね。技術に精通している方ほど、契約のリスクには疎いことが多い。でも、きちんとした契約を結ぶことは、良好なビジネス関係を築くためにも重要ですよ」

弁護士の言葉に、エンジニアは深く頷いた。これからは、自分の技術だけでなく、ビジネスの知識もしっかり身につけていかなければならない。

「では、新しい契約書を作りましょう。これからの貴社の成長を見据えて、長期的に使える契約フォーマットを作成するのが理想です」

「ぜひ、お願いします!」

こうして、エンジニアは初めて技術者としての武器だけでなく、経営者としての防具を手に入れることになった。

――法人化したエンジニアが、契約の壁を越えていくために。

※この物語はすべてフィクションです。

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